更新履歴

2021/1/19 メギド72+4 今まで同人誌として出したものを追加
2019/5/28 メギド72+1
2019/1/31 メギド72に1つ追加
2018/8/18 開設

web拍手

Twitter
@_wisteria_y
Mail
annihil4tion047☆gmail.com
・F/GO 鯖ぐだ
・トリ→←ぐだこの両片思い前提
・死ネタ





「ねぇ、私を殺してよ」

マスターからマイルームへと内密に呼び出され、何用か、まさか待ち望んでいた愛の告白ではないかと意気揚々と向かえば、
こちらを見もせず投げかけられたのは、私の淡い希望を両断するようなものであった。
「失礼、マスター。今、なんと?」
「あら、居眠りでもしていた? 殺して、って言ったの」
聞き間違いであって欲しかった。
「…できません」
「なら、令呪を使う」
「…っ!何故、そこまでする必要があるのですか!第一、貴女の令呪にそこまでの強制力はありません。
たとえ三画全て使用しても、その命令は聞けません!」
「そ。じゃあ下がっていい。用事はそれだけだったから」
話の重さの割にはあっさりとした対応に少々戸惑う。
「待ってください。せめて、理由をお聞かせください。何か、私がお役に立てるかもしれませんから…」
「だめ。私のお願いは聞いてくれないのに、自分は聞いてもらおうなんて都合が良すぎるよ」
う、と言葉に詰まる。返す言葉がなかった。
「そう、ですね…出過ぎた真似を失礼しました」
では、と部屋を後にする。
何故、彼女はあのような突拍子もない願いを口にしたのだろうか。
思春期にはありがちな、気分の落ち込みによるただの気まぐれだろうと無理やり納得しようとする。
ただ、胸の内から怪しげな不安が消えることはなかった。

翌朝、マスターがいつまで経っても起きてこないということで、
いっとう親しくしているからと言う理由で、私が様子を見に行くことになった。
固く閉ざされた部屋のドアをノックする…返事がない。
「マスター?起きていらっしゃいますか?どこか、お体の具合でも悪いのですか」
相変わらず返答はなく、ただ虚しく自分の声が響くのみだった。
昨日の事件から消えることのなかった不安感が波濤のように押し寄せてくる。
女性の寝室に無断で入るのは些か気が引けるが、緊急事態だ。破壊するより他に手立てはないだろう。
フェイルノートの弓弦をそっと爪弾けば、奏でる不可視の斬撃がドアを跡形もなく斬り刻む。
目の前に開かれた部屋の中を見た、見てしまった私は愕然とするほかなかった。

いつもと変わらない、白で統一された清潔感のある部屋。
家具の配置も昨日と何も変わらない。
ただ一つ、天井から垂れるロープの輪になったその先で、
私の愛する人が、羅針盤の緩慢な針のようにゆらり、ゆらりと揺れている以外は。

北、北東、東、南東…少し止まり、今度は逆向きに南東、東、北東、北…ゆっくり揺れる足の下に、一枚の紙が落ちているのを見つける。
中身は、確実に遺書だろう。
心を搔き乱す焦燥感に突き動かされ、彼女を降ろしてやることも忘れて震える指で折り畳まれたそれを開く。

「きっと一番に私を見つけるのは貴方でしょう。
わかっているから、あえて名前は書きません。
貴方が殺してくれないから、私は自殺することにしました。
血を見るのは辛いだろうから、首を吊ることにします。
結局最期まで、私はイゾルデにはなれませんでしたね。
さようなら
愛していました」

嗚呼、きっとあの日に彼女が欲しかったのは理屈の返答ではなく、ただ「愛している」の一言だけだったのだろう。
決して変えることのできない、私の物語の結末。
また私は何一つ伝えられず、伝わらず終わってしまった。
果たして幾度、この後悔を繰り返せばよいのだろうか。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

アクセスカウンター